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東京高等裁判所 平成7年(行コ)33号 判決 1996年5月15日

控訴人 小島眞作

被控訴人 江戸川税務署長

事務承継人江戸川南税務署長

代理人 齋木敏文 信太勲 ほか二名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の被承継人江戸川税務署長が平成二年一二月二五日付けでした次の各処分を取り消す。

(一) 控訴人の昭和六二年分の所得税に対する更正のうち、総所得金額三一五万七四八六円、右総所得金額に対応する納付すべき税額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、右総所得金額の取消部分に対応する部分(ただし、いずれも平成四年九月一七日付けの国税不服審判所長の裁決〔以下「本件裁決」という。〕により一部取り消された後のもの)

(二) 控訴人の昭和六三年分の所得税に対する更正のうち、総所得金額二六六万九八八〇円、右総所得金額に対応する納付すべき税額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、右総所得金額の取消部分に対応する部分(ただし、いずれも平成三年五月一六日付けの被控訴人の異議決定及び本件裁決により一部取り消された後のもの)

(三) 控訴人の平成元年分の所得税に対する更正のうち、総所得金額二八〇万三四〇〇円、納付すべき税額一一万七六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも平成三年五月一六日付けの被控訴人の異議決定及び本件裁決により一部取り消された後のもの)

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(なお、控訴人は、当審において、昭和六二年分の所得税に対する更正について取消しを求める部分を、右(一)のとおり減縮した。)

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

本件の事案の概要は、次のとおり控訴人の当審における主張を付加するほかは原判決の「事実及び理由」の第二に記載されたとおり(ただし、原判決四丁裏五行目、五丁裏九行目、七丁表五行目の各「申告納税額」をいずれも「申告すべき納税額」に、九丁表二行目の「管轄する」を「管轄していた事務分割前の」にそれぞれ改め、同一一丁表一〇行目の「ものである」の次に「(ただし、昭和六三年分については火災保険の解約返戻金九九万三八四〇円が加算されている(<証拠略>)。)」を加え、同一四丁表二行目の冒頭から同八行目の末尾までを削除する。)であるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

一  推計の合理性について

控訴人の店舗における出玉率が本件比準同業者に比して著しく高く、これが推計を不合理ならしめる程度に顕著であることは、<証拠略>の売上レシートに印字されている出玉率から明らかである。

二  実額による総所得金額について

1 控訴人は、原審において、昭和六二年分の総所得金額を二四〇万二四八六円と主張していたが、武州企業株式会社に対する同年一二月二三日のパチンコ機械販売代金七五万五〇〇〇円が計上漏れであったので、これを加算し総所得金額を三一五万七四八六円と訂正する。

2 控訴人は、原審において、平成元年分の総所得金額を四七万二三八七円と主張していた。

しかし、控訴人の自宅の水道工事代金を誤って経費に算入していたので、これを控除して計算し直すと(原判決別表一一の平成元年分の減価償却費の金額欄が一七二万一三四〇円に、同合計欄が一五七四万一二一二円にそれぞれ訂正される。)、総所得金額は四七万八六二四円となる。

また、武州企業株式会社に対する同年四月一八日のパチンコ機械販売代金七〇万円が計上漏れであり、さらに固定資産売却益と同売却損との差額一一一万三五〇〇円も譲渡所得として総所得金額に合算すべきであったので、前記四七万八六二四円にこれらを加算すると、控訴人の平成元年分の総所得金額は二二九万二一二四円となる。

しかしながら、右の金額は控訴人が請求の趣旨において平成元年分の所得金額としている二八〇万三四〇〇円(確定申告額)を下回っているから、同年分の請求の趣旨を変更する必要はない。

3 パチンコ機械等の販売代金について

(一) 控訴人がパチンコ機械の販売により得た売上金額(ただし、右1、2で計上漏れとした二件分を除く。)は、甲三五号証の一ないし三に計上されているとおり、昭和六二年度は二一〇万一三二四円、同六三年度は一三〇万円、平成元年度は二六〇万六五二〇円であった。すなわち、昭和六二年度及び同六三年度は、右甲号証中の「機械装置」の勘定科目の貸方に、平成元年度分は同じく「機械装置」の勘定科目の貸方及び雑収入(右雑収入は期末に固定資産売却益に振り替えているが、これは所得税の計算において事業所得と譲渡所得に区分するためにしたものである。)として計上されている。

ところで、パチンコ機械を購入する場合、販売用とするのか控訴人の経営する店舗で直接使用するかはその都度異なるので、購入した機械を固定資産として計上し、販売したものは固定資産をマイナスするという処理の方が、より明確な所得の計算ができる。

したがって、控訴人は、パチンコ機械の販売代金を売上としては計上していないが、貸借対照表上の固定資産科目である「機械装置」の貸方に計上しているので、費用(パチンコ機械の耐用年数は二年であるので、二年で費用化される。)のマイナス、すなわち収入として計上するのと同じ結果となる。

(二) 武州企業株式会社からの昭和六三年一月一二日の一〇〇万円の入金と平成元年一月一三日の一〇〇万円の入金は、いずれも控訴人が同社からの融資依頼により知人を紹介したところ、同社が右知人に対する返済を控訴人を通じてなしたものであり、パチンコ機械の販売代金ではない(<証拠略>)。

(三) 昭和六三年三月一五日の空気清浄機の販売代金四二万四〇〇〇円は、これに対応する仕入れの記載がなく、本来売上に算入すべきではなかったが誤って機械資産勘定に記載してしまったものである。

4 被控訴人は、控訴人が原審において、控訴人の事業収益は月二〇ないし三〇万円程度と認識している旨供述したことと、控訴人の原審における総所得金額についての実額主張額(特に平成元年分の四七万二三八七円)との間には著しい開差があり、右実額主張は信用できないと主張している。

しかし、控訴人は、付属設備及び機械装置について減価償却をしているところ、このような費用非支出の科目は現金の留保を生むので、控訴人の手元に残る金額は総所得金額にこの減価償却費の金額(昭和六二年分は一一三万七一八七円、同六三年分は一六八万七五〇〇円、平成元年分は一七二万一三四〇円)を加算する必要がある。そして、これに右1、2のとおり、パチンコ機械の販売代金が一部計上漏れであったことを考慮すれば、控訴人の事業収益が月二〇ないし三〇万円程度である旨の控訴人の認識は十分に正確なものといえる。

5 本件係争年度中の昭和六二年一月一日から平成元年一二月三一日までの間に景品交換所を経営していたのは、パチンコ店舗の貸主であった梅原清であり、控訴人ではない。控訴人は、平成二年以降、松浦ミネ子に委託して景品交換所を経営するようになったものである。

6 控訴人の金融機関からの借入金残高は、本件係争年度中に一六〇九万五三四八円も増加しているが、特段の資産の購入もないのに右のように借入金残高が増加していることは、控訴人の事業の経営不振を裏付けるものである。

第三争点に対する判断

当裁判所も、本件各更正及び各賦課決定には何ら違法な点はなく、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に加除、訂正するほかは原判決の「事実及び理由」の第三に記載されたとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一五丁裏三行目から四行目にかけての「江戸川税務署」を「事務分割前の江戸川税務署」に、同一七丁表八行目から九行目にかけての「その事業規模は、原告の事業規模と近似する一定の範囲内に規定されている」を「右抽出基準により、控訴人の事業規模に近似する一定範囲内の事業を抽出することができる」にそれぞれ改め、同一九丁表八行目の末尾に「なお、売上レシート(<証拠略>)に印字された売上金額が措信できないことは後記二1の(一)に説示するとおりであり、右売上金額が措信できない以上、これに基づいて算出された出玉率をもって、控訴人の出玉率が本件比準同業者に比して著しく高いものと認めることはできない。」を加え、同二〇丁裏二行目の「煙草及び」を削除する。

二  同二四丁表二行目の「(一)」の次に「及び控訴人の当審における主張の二1、2」を加え、同五行目の「このような」から同一一行目の末尾までを「このような推計課税に対して、控訴人が実額による課税をすべき旨を主張する場合には、その主張する収入金額が控訴人の当該係争年分のすべての取引から生じたすべての収入(以下「総収入」という。)であり、かつ、その主張する必要経費が当該係争年中に発生、確定し、かつ、事業との関連性を有するものであることを合理的な疑いを入れない程度に立証する必要がある。すなわち、推計課税は、実額課税と同じく真実の所得額を認定することを目的として、納税者が実額を算定するに足りる帳簿書類などの直接資料を提出せず税務調査に協力しない場合に、やむをえず真実の所得額に近似した額を間接資料により推計し、これをもって真実の所得額と認定する方法であり、課税庁において右推計課税の合理性につき立証した場合には、真実の所得額がこれと異なることが明らかにされない限り、右推計課税の方法により算定された額が真実の所得額であるとされるものであるところ、右真実の所得額の証明に関して、申告納税制度において自己の申告所得額が正しいことを説明すべき納税者が、税務調査に協力せずに課税庁に推計課税を余儀なくさせたうえ、その主張する所得額が真実の所得額と合致することについて立証責任を負担しないとすれば、誠実な納税者よりも利益を得ることになって不当である。これに加えて、納税者の経済行為については第三者たる課税庁よりも当事者たる納税者の方が証拠を提出することが容易な立場にあることに照らせば、納税者が推計課税取消訴訟において所得の実額を主張し、推計課税の方法により認定された額が右実額と異なるとして、推計課税の違法の認定を得るためには、納税者においてその主張する実額が真実の所得額に合致することを立証しなければならないものというべきである。」に改める。

三  同二四丁裏一行目の「(一)」の次に「(1)」を、同二五丁表一行目の末尾に「なお、右元帳には、少なくとも控訴人が自認するパチンコ機械販売代金二件分の計上漏れがあり、この点からもその信憑性には疑問があるといわざるを得ない。」をそれぞれ加え、同二七丁表八行目の「全く」を「十分に」に改め、同丁裏一行目と二行目の間に「なお、控訴人は、当審において、自動玉貸機内の硬貨については、遊戯客が両替した硬貨を全部使用せずに持ち帰る金額と、遊戯客が最初から持参して使用する硬貨の額の差は一日当たり二〇〇〇円から一万円であり、長期的にみれば相殺されてしまうから、これを数えなくとも売上金額には影響がない旨供述しているが、右差額が長期的にみてほぼ相殺されるものと認めるべき客観的根拠はなく、右供述はたやすく措信できない。」を加える。

四  同五行目の冒頭から同二八丁裏三行目の末尾までを次のとおり改める。

「(2) 控訴人は、飲料類の自動販売機による売上について、月額八万円を超えることはないから、年間九六万円の売上があるものとしてこれを加算すれば実額反証として十分である旨主張し、<証拠略>及び控訴人の原審供述中には右主張に沿う部分が存在するが、右供述部分はいずれもたやすく措信できず、他に右主張を認めるに足りる的確な証拠は存在しない。

そうすると、この点からも、控訴人の主張する総収入金額が控訴人の総収入であることについて、合理的な疑いを入れない程度に立証されているとはいえないことになる。

(3)<1> 控訴人は、昭和六二年分及び同六三年分のパチンコ機械の販売代金(ただし、控訴人の当審における主張二1で控訴人が計上漏れを認めている分を除く。)は、売上時に貸借対照表上の固定資産科目である『機械装置』の貸方に計上されているので、費用のマイナスすなわち収入として計上するのと同じ結果になると主張している。

しかし、パチンコ機械の売上時に右金額を機械装置勘定の貸方に計上する方法もないわけではないが、その場合は、右の貸方に計上する金額は当該パチンコ機械の取得価格であり、これと売上金額との差額を固定資産売却損益として計上すべきである。現に、控訴人は、昭和六三年三月一六日の四二万四〇〇〇円の取引については機械装置勘定の貸方に売却価格で計上したうえ一六万七八一三円の売却損を計上し(<証拠略>)、平成元年八月二一日の一一〇万円の取引についても同様にして三九万二五〇〇円の売却損を計上する(<証拠略>)ことにより、実質上取得価格を計上したのと同様の結果としたうえ、別に固定資産売却損の勘定科目に右売却損を計上している(<証拠略>)。ところが、昭和六二年一月二四日の一一〇万一三二四円の取引、同年一二月九日の一〇〇万円の取引及び同六三年二月一五日の八七万六〇〇〇円の取引については、機械装置勘定の貸方に売上金額を計上しているが固定資産売却損益は計上していない(<証拠略>)。

ところで、一般に、機械装置の売却を機械装置勘定の貸方に計上した時の借方勘定は預金勘定等の増加であるが、単に右貸方に計上したのと同額を右借方に計上しただけでは資産科目の機械装置勘定から同じ資産科目の預金勘定等に振り替わるだけで、当該取引にかかる損益が計上されることにはならず、右借方に売上額を計上するとともに、これに対応する取得額及び売却損益の計上を要するものというべきである。

したがって、控訴人の右の会計処理では、昭和六二年一月二四日、同年一二月九日及び同六三年二月一五日の各取引の損益は控訴人の総所得金額に反映されていないことになる。

<2> また、控訴人は、武州企業株式会社からの昭和六三年一月一二日の一〇〇万円の入金と平成元年一月一三日の一〇〇万円の入金は、いずれも控訴人が同社からの融資依頼により知人を紹介したところ、同社が右知人に対する返済を控訴人を通じてなしたものであり、パチンコ機械の販売代金ではない旨主張しているところ、甲四四号証の一(武州企業株式会社の代表取締役野田清の陳述書)には右主張に沿う供述部分がある。

しかし、<証拠略>によれば、野田清は梅津大蔵事務官の事情聴取に対し、右各金員はパチンコ機械販売代金である旨供述していること、甲四〇号証(控訴人の陳述書)によれば、控訴人も右各金員がパチンコ機械の販売代金であり計上漏れであったことを認めていたこと、控訴人は、昭和六三年一月一二日の一〇〇万円については、当審においても計上漏れを認める供述をしていること、平成元年一月一三日の一〇〇万円と同年二月七日のパチンコ機械販売代金七九万円の二口分の領収証と推認される<証拠略>には、右金員を機械代金として受領した旨が記載されていることを総合考慮すると、前記甲四四号証の一は措信できず、昭和六三年一月一二日の一〇〇万円及び平成元年一月一三日の一〇〇万円はいずれもパチンコ機械の販売代金と認めるのが相当である。

そうすると、控訴人の主張する総収入金額に右パチンコ機械売却にかかる収入が含まれていないことは明らかである。

<3> 控訴人の原審供述によれば、控訴人は昭和六二年から同六三年前半にかけて飯能プラザに対してもパチンコ機械を販売したことが認められるところ、控訴人は、右販売にかかる収入について何ら主張、立証していない。

<4> 右<1>ないし<3>の点からも、控訴人の主張する総収入金額が控訴人の総収入であると認めることはできないものというべきである。

(4) 控訴人は、本件係争年分中の景品交換所の経営は梅原清がしていたものである旨主張し、甲四三号証(控訴人の陳述書)及び控訴人の当審供述中には右主張に沿う供述部分が存在する。

しかし、<証拠略>によれば、控訴人は、景品交換所の松浦ミネ子に毎朝換金の原資として二〇万円を持参していた旨、控訴人が景品交換所を経営していたことを前提とする供述をしていたこと、<証拠略>によれば、梅原清の昭和六三年及び平成元年の申告所得額は年金にかかるもののみで、景品交換所の経営による収入はないことからすれば、前記甲四三号証及び控訴人の当審供述部分はたやすく措信できず、本件係争年度中も控訴人が景品交換所を経営していた疑いが強い。

そうすると、この点からも、控訴人の主張する総収入金額が控訴人の総収入であることについて、合理的な疑いを入れない程度に立証されているとはいえないことになる。

(5) なお、控訴人は、昭和六二年一月一日から平成元年一二月三一日までの本件係争年度中に金融機関からの借入金残高が一六〇九万五三四八円も増加していることは、控訴人の事業が経営不振であったことを裏付けるものである旨主張しているところ、<証拠略>によれば、控訴人主張のとおり本件係争年度中に金融機関からの借入金残高が一六〇九万五三四八円増加している事実が認められる。

しかし、一般に、経営が好調な時でも設備投資等のために借入金が増加することはあり得ることであるから、本件係争年度中に借入金残高が増加したことのみをもって直ちに右期間中の経営状態が不振であったと認めることはできないところ、<証拠略>によれば、右借入金残高の増加分のうち約七〇〇万円は、控訴人の自宅のローンの返済にあてられたものであることが認められる。

したがって、控訴人の前記主張も採用できない。」

五  同二八丁裏七行目の冒頭から九行目の末尾までを次のとおり改める。

「(三) 次に、必要経費についての控訴人主張額について検討するに、控訴人は、本件係争年度中、従業員の林マサ子に二八八万円(月額二四万円)、同福田護に二五二万円(月額二一万円)、合計五四〇万円の給与を支払っていた旨主張しているところ、甲一一号証(林マサ子及び福田護の昭和六二年一月分の給料支払明細書)には、林マサ子の同月分の給与が二四万円、福田護の同月分の給与が二一万円と記載されており、甲一五号証(林マサ子の平成二年一二月分の給料支払明細書〔写し〕)には、林マサ子の同月分の給与が二四万円と記載されている。また、甲三八号証の一(林マサ子の陳述書)には、給与は月額二四万円が正しく、税務申告は誤りであった旨の供述が記載されており、控訴人の原審における供述によれば、本件係争年度中の控訴人の従業員は林マサ子と福田護の二名であったことが認められる。

他方、甲八号証(控訴人作成の金銭出納簿)の昭和六二年分か同六三年分の従業員の給与金額を記載した箇所(同号証の二七枚目裏)には、一人時給七〇〇円で一日五六〇〇円、一か月で一四万五六〇〇円、一年で一七四万七二〇〇円、三人分で五二四万一六〇〇円との趣旨の記載があり、乙六六号証の一、二(江戸川区長作成の課税状況についての回答書)によれば、林マサ子は、住民税の申告に際し、昭和六二年分の所得は一五九万六〇〇〇円(月額一三万三〇〇〇円)、同六三年分のそれは一五四万四〇〇〇円(月額一二万八六六六円)、平成元年分のそれは一七四万七二〇〇円(月額一四万五六〇〇円)と申告していること、福田護は無申告であることが認められる。

そうすると、前記甲一一、一五号証、三八号証の一は、いずれも甲八号証、乙六六号証の一、二に照らしてたやすく措信できず、控訴人は従業員の給与について過大な額を主張している疑いがあるというべきである。

したがって、控訴人の主張する必要経費の額が当該係争年度中に発生したものであることについて、合理的な疑いを入れない程度に立証されているとは未だいえないことになる。

2 以上の次第で、控訴人の総収入金額及び必要経費についての実額の主張は、その主張する総収入金額が控訴人の総収入であること、必要経費が当該係争年度中に発生したものであることについて、合理的な疑いを入れない程度に立証されているものとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、これを採用することができないものというべきである。」

第四結論

よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 加茂紀久男 鬼頭季郎 林道春)

【参考】第一審(東京地裁 平成四年(行ウ)第二三九号 平成七年二月二八日判決)

主文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が平成二年一二月二五日付けでした次の各処分を取り消す。

一 原告の昭和六二年分の所得税に対する更正のうち、総所得金額二四〇万二四八六円、右総所得金額に対応する納付すべき税額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、右総所得金額の取消部分に対応する部分(ただし、いずれも平成四年九月一七日付けの国税不服審判所長の裁決(以下「本件裁決」という。)により一部取り消された後のもの)

二 原告の昭和六三年分の所得税に対する更正のうち、総所得金額二六六万九八八〇円、右総所得金額に対応する納付すべき税額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、右総所得金額の取消部分に対応する部分(ただし、いずれも平成三年五月一六日付けの被告の異議決定及び本件裁決により一部取り消された後のもの)

三 原告の平成元年分の所得税に対する更正のうち、総所得金額二八〇万三四〇〇円、納付すべき税額一一万七六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも平成三年五月一六日付けの被告の異議決定及び本件裁決により一部取り消された後のもの)

第二事案の概要

本件は、パチンコ店を営む白色申告者である原告が、昭和六二年分から平成元年分まで(以下「本件係争年分」という。)の所得税について確定申告をしたところ、被告が原告の売上原価を基に同業者比率により売上金額及び事業所得金額を推計により算出し、更正及び過少申告加算税賦課決定を行ったので、原告が、被告の課税処分には推計の合理性がなく、被告が推計により算出した総所得金額は原告の実際の所得金額を上回っているとして所得金額の実額を主張し、右各更正のうち申告額又は主張額を超える部分及び右各賦課決定のうち一部又は全部の取消しを求めている事案である。

一 本件課税処分の経緯(この事実は当事者間に争いがない。)

原告の本件係争年分の各所得税の確定申告、課税処分及び不服申立ての経緯は、別表一から三までのとおりである(以下、各年分の更正及び過少申告加算税賦課決定を総称して「本件各更正」及び「本件各賦課決定」という。)。

二 本件各更正及び本件各賦課決定の課税根拠についての被告の主張

1 本件係争年分の総所得金額及びその算出根拠

被告は、原告がパチンコ業を営むものであるとして、次のとおり、推計の方法によりその額を算出した。

(一) 昭和六二年分    一三三七万三四三六円

(1) 総収入金額(売上金額) 一億二四二八万八四四四円

右金額は、被告が把握した原告の昭和六二年における売上原価の額八九一六万四五三〇円(後記(2)の金額)を、原告と同様にパチンコ店を営む個人又は法人で、かつ、原告と事業規模の類似する者(以下「比準同業者」という。)の昭和六二年中の売上金額に対する売上原価の割合(以下「売上原価率」という。)の平均値(以下「平均売上原価率」という。)七一・七四パーセント(別表五のとおり)で除した金額である。

(2) 売上原価          八九一六万四五三〇円

右金額は、被告が把握した原告が営むパチンコ業に係る同年分の仕入金額の合計額であり、その内訳は別表四の昭和六二年分欄記載のとおりである。

なお、期首及び期末の棚卸高については、原告の事業内容及び事業規模からみて、各年分とも著しい変動がないものと認められたので、これを同額とし、仕入金額をもって売上原価とした(昭和六三年分及び平成元年分についても同様である。)。

(3) 特前所得金額        一三三七万三四三六円

右金額は、右(1)の総収入金額(売上金額)一億二四二八万八四四四円に、比準同業者の昭和六二年中の売上金額に占める特前所得(青色特典控除前の所得金額をいい、総収入金額から売上原価及び経費の額を控除した金額)の割合(以下「特前所得率」という。)の平均値(以下「平均特前所得率」という。)一〇・七六パーセント(別表五のとおり)を乗じて算出した金額である。

(4) 事業所得の金額       一三三七万三四三六円

右金額は、原告の事業所得の金額であり、右(3)の特前所得金額と同額である。

(5) 総所得金額         一三三七万三四三六円

右(4)の事業所得の金額が総所得金額となる。

(6) 所得控除の額          五六万五〇一二円

右金額は、原告の昭和六二年分の所得控除の合計額である(右金額は当事者間に争いがない。)。

(7) 申告納税額          三四九万一一〇〇円

右金額は、右(5)の原告の総所得金額から右(6)の所得控除の額を控除した額一二八〇万八〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額)に所得税法八九条(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)の規定に基づく税率を乗じて算出した額である。

(二) 昭和六三年分    一九一九万一九一五円

右金額を算出するために用いた推計の方法は昭和六二年分の方法と同様である。

(1) 総収入金額(売上金額)  二億一五九万五七四九円

昭和六三年における売上原価は一億四九二〇万一〇一四円(後記(2)の金額)であり、同年分の平均売上原価率は七四・〇一パーセント(別表六のとおり)である。

(2) 売上原価        一億四九二〇万一〇一四円

同年分の仕入金額の内訳は、別表四の昭和六三年分欄記載のとおりである。

(3) 特前所得金額        一九一九万一九一五円

同年分の平均特前所得率は九・五二パーセント(別表六のとおり)である。

(4) 事業所得の金額       一九一九万一九一五円

右金額は、右(3)の特前所得金額と同額である。

(5) 総所得金額         一九一九万一九一五円

右(4)の事業所得の金額が総所得金額となる。

(6) 所得控除の額           七四万九七七円

右金額は、原告の昭和六三年分の所得控除の合計額である(右金額は当事者間に争いがない。)。

(7) 申告納税額              五四八万円

右金額は、右(5)の原告の総所得金額から右(6)の所得控除の額を控除した額一八四五万円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額)に昭和六三年分の所得税の臨時特例に関する法律三条の規定に基づく税率を乗じて算出した額である。

(三) 平成元年分     二〇二一万八三一一円

右金額を算出するために用いた推計の方法は昭和六二年分の方法と同様である。

(1) 総収入金額(売上金額)  二億一六四七万一四三円

平成元年分の売上原価は一億六二七八万五五四八円(後記(2)の金額)であり、同年分の平均売上原価率は七五・二〇パーセント(別表七のとおり)である。

(2) 売上原価        一億六二七八万五五四八円

同年分の仕入金額の内訳は別表四の平成元年分欄記載のとおりである。

(3) 特前所得金額        二〇二一万八三一一円

同年分の平均特前所得率は九・三四パーセント(別表七のとおり)である。

(4) 事業所得の金額       二〇二一万八三一一円

右金額は、右(3)の特前所得金額と同額である。

(5) 総所得金額         二〇二一万八三一一円

右(4)の事業所得の金額が総所得金額となる。

(6) 所得控除の額         一二七万七一〇〇円

右金額は、原告の平成元年分の所得控除の合計額である。原告の合計所得金額(所得税法二条一項三〇号に規定するもの)が一〇〇〇万円を超えているので、同法八三条の二第二項に基づき配偶者特別控除の規定の適用はなく、原告の確定申告の際の所得控除の額一六二万七一〇〇円から、右配偶者特別控除の額三五万円を除いた金額である(右配偶者特別控除額を除いたその余の所得控除の額については当事者間に争いがない。)。

(7) 申告納税額 五六七万六四〇〇円

右金額は、右(5)の原告の総所得金額から右(6)の所得控除の額を控除した額一八九四万一〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額)に所得税法八九条の規定に基づく税率を乗じて算出した額である。

2 本件各更正の適法性

被告が本訴で主張する原告の本件係争年分の総所得金額及び納付税額は、前記1のとおり、それぞれ左記の金額となる。

総所得金額 納付税額

昭和六二年分 一三三七万三四三六円 三四九万一一〇〇円

昭和六三年分 一九一九万一九一五円     五四八万円

平成 元年分 二〇二一万八三一一円 五六七万六四〇〇円

これに対し、本件各更正(いずれも本件裁決により一部取り消された後のもの。以下、同じ。)における総所得金額及び納付税額は、別表一ないし三の裁決欄記載のとおり、それぞれ左記の金額となる。

総所得金額 納付税額

昭和六二年分  六四八万五七七六円 一〇〇万七五〇〇円

昭和六三年分 一三七八万五七二七円 三三一万七六〇〇円

平成 元年分  九五二万四三〇二円 一四六万九一〇〇円

以上のとおり、本件各更正における総所得金額及び納付税額は、いずれの年分も、被告が本訴で主張する金額の範囲内であるから、本件各更正は適法である。

3 本件各賦課決定の適法性

被告は、本件各更正によって原告が納付すべき所得税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の金額を切り捨てた金額、以下同じ。)を基礎として、国税通則法六五条一項及び二項の規定に基づき、原告が新たに納付すべき税額に一〇〇分の一〇を乗じた金額と、右税額のうち期限内申告税額に相当する金額と五〇万円とのいずれか多い金額を超える金額に一〇〇分の五を乗じた金額の合計額をそれぞれ過少申告加算税として本件各賦課決定を行ったものであり、本件各賦課決定は適法である。

三 争点

本件においては、本件各更正及び各賦課決定の適法性が争われているが、本件の争点及び争点に関する当事者双方の主張の要旨は、以下のとおりである。

1 推計の合理性

(一) 被告の主張

(1) 被告の推計の方法は前記のとおり、被告が把握した原告の仕入金額を売上原価とし、右金額を比準同業者の平均売上原価率で除して総収入金額を算出し、右総収入金額に比準同業者の平均特前所得率を乗じて原告の特前所得金額を算出したものである。

(2) 比準同業者は、原告の納税地を管轄する江戸川税務署並びにこれにほぼ隣接する荒川税務署、足立税務署、西新井税務署、本所税務署、向島税務署、葛飾税務署、江東西税務署及び江東東税務署(以下「隣接等税務署」という。)管内において、原告と同種のパチンコ業を営む個人事業者及び法人事業者のうち、本件係争年分の各年分ごとに、次のすべての条件(以下「本件抽出基準」という。)を満たす者(以下「本件比準同業者」という。)を抽出した(別表五ないし七のとおり)。

ア 本件係争年分において、青色申告の承認を受け青色申告決算書又は青色申告書を提出している者

イ 年を通じてパチンコ業を営んでいる者

ウ 本件係争年分の売上原価が、原告の売上原価の半分以上二倍以下の範囲内である者

エ 次のいずれにも該当しない者

a 災害等により経営状態が異常であると認められる者

b 税務署長から更正又は決定処分を受けている者のうち、当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間及び出訴期間が経過していない者及び当該処分に対して不服申立て又は訴訟中である者

(3) 以上のとおり、本件抽出基準を満たした本件比準同業者は、原告の事業所の近接地域において、原告と業種及び事業規模等が類似している青色申告同業者であり、その抽出作業は右基準を満たす者を漏れなく抽出しているので、そこに恣意の介在する余地はない。

そして、平均値としての売上原価率及び特前所得率を算出する場合には、業者間に通常存在する程度の立地条件や従業員数等の営業条件等の差異は、右平均値の中に吸収されて捨象されるのであり、本件比準同業者の売上原価率及び特前所得率は、売上原価の多寡により著しい偏差はなく、原告の売上原価の額を下回る同業者も含まれているのであるから、原告との立地条件や従業員数等の営業条件等の差異は、右平均値の中に吸収されて捨象されるものというべきである。

したがって、本件における推計の方法は合理性を有する。

(二) 原告の主張

原告の店舗は、最寄り駅である西葛西駅から徒歩で一五分以上もかかり、商店街からも離れた閑静な住宅街の中にあるにもかかわらず、駐車場もない小規模な店舗である。原告の店舗には付近のなじみ客しか来店せず、内外装やパチンコ機械も新しいものにすることができず、売上はじり貧状態であって、原告の店舗が他の西葛西所在の店舗と比べて、位置、規模、従業員数、内外装、集客力等で雲泥の差があることは明らかであり、被告の推計方法は、こうした原告の顕著な特殊事情を一切しんしゃくしていない点で合理性を欠くというべきである。

また、被告は、本件比準同業者に法人の事業者も含めているが、一般的にも小規模零細個人事業者と大規模法人事業者とでは、経営効率等の面で大きな隔たりがあるというべきであり、法人事業者を含めて比準同業者を抽出した被告の推計方法は合理性を欠くというべきである。

2 原告の本件係争年分の実額による事業所得金額

(一) 原告の主張

原告の本件係争年分の総収入金額、売上原価、一般経費及び総所得金額の実額は、左記のとおりである。

なお、右総収入金額は、原告が日々作成していた売上レシート(パチンコの玉貸機及びスロットマシンのコイン貸機のカウンターが表示する売上の合計等を記録したもの。以下「売上レシート」という。)及びこれに基づく月別集計表に基づいて、算出された売上金額に、原告の店舗内に設置されている飲料の自動販売機の売上が、概算として月八万円であるとしてこれを加算したものである。

また、売上原価の明細は、別表八ないし一〇の原告の計算欄記載のとおりであり、一般経費の明細は、別表一一記載のとおりである。

昭和六二年分

総収入金額  一億六二八万五〇〇〇円

売上原価    九〇六六万三七四六円

一般経費    一三二一万八七六八円

総所得金額    二四〇万二四八六円

昭和六三年分

総収入金額 一億六三六三万六五四〇円

売上原価  一億四六七二万八九三〇円

一般経費    一四二三万七七三〇円

総所得金額    二六六万九八八〇円

平成元年分

総収入金額 一億八一二六万三九二〇円

売上原価  一億六五〇四万四〇八四円

一般経費    一五七四万七四四九円

総所得金額     四七万二三八七円

(二) 被告の主張

(1) 納税者が、もともと事業の当事者であり、証拠の提出につき課税庁とは対等の立場にないことからすれば、課税庁の推計による所得金額を争い、自己の所得金額を実額で主張し、真実の所得金額が推計額と異なるとして推計課税の違法性を主張するためには、その実額の主張立証は、推計を排斥するものとして完全なものであることが要求されるというべきであり、本件においては、その主張する総収入金額について、これを上回る収入のないこと、その主張する売上原価及び必要経費について、これを下回らないことをそれぞれ立証しなければならないというべきである。

しかしながら、原告の実額の主張立証は、以下のとおり、右の程度を満たしていない。

(2) 原告が、本訴において本件係争年分の所得金額の実額として主張する金額は、原告本人が認識している所得金額と大きく異なるものであり、到底信用できるものではない。

また、事業所得を実額で把握するためには、よほどの単純、小規模な事業でもない限り、事業に関して生ずる収入及び支出の一切を細大漏らさず記録した会計帳簿の存在が必要不可欠であるところ、原告は、いわゆる現金商売の総収入金額の正確性を担保する帳簿である現金出納帳の作成を行っておらず、また、原告が本訴において会計帳簿として提出していると思われる元帳は、事業の収入及び支出の一切を細大漏らさず記録したものとは到底認められない。そして、原告の現金管理の方法自体極めて杜撰なものであり、原告の主張する総収入金額なるものは到底信用できない。

さらに、原告が主張する総収入金額には、原告がパチンコ機械等の販売を行って得た収入が計上されておらず、また、原告は自ら換金商品を現金と交換する換金所を経営しているものであるところ、これによる利益については、その主張する総収入金額には何ら反映されていない。また、原告は、原告店舗に設置されている飲料自動販売機の売上について、その正確な把握ができないとし、概算として月八万円の売上を加算して総収入金額を算出しているが、飲料自動販売機の売上高の正確な把握さえできないと自認する以上、その主張する総収入金額が原告のすべての収入であるとの検証は到底できるものではない。

また、原告は、本訴において主張する総収入金額は、日々作成している売上レシートに基づくものであるとして、売上レシートを提出しているが、売上レシートに記載された収入金額と現実の現金の在高との検証ができないことは明らかであり、売上レシートの正確性を確認するすべはない。また、売上レシート自体、三種類のレジペーパーが交互に使用されており、その点も不自然である。

さらに、原告の主張によれば、景品原価は、貸玉の交換玉数に交換単価を乗じることにより求められることになるが、売上レシートに記載された交換玉数の合計に交換単価(一〇個当たり二六円)を乗じた金額は、少なくとも、昭和六二年分については、原告主張の売上原価と大きく異なっており、飲料自動販売機に係る原告主張の売上金額をすべて売上原価としても、その差異は説明できない。右によれば、原告の売上原価に計上漏れがあり、その収入金額にも計上漏れがあることがうかがわれる。

(3) 原告が、本訴において一般経費として主張する給与手当については、昭和六二年分については、二名の従業員に対する月額二四万円と月額二一万円の給与の合計月額四五万円の一年分として、五四〇万円の給与手当の支出があり、昭和六三年分及び平成元年分についても同様である旨主張し、昭和六二年分の給与支払明細書等を提出するが、原告が年間の集計をして申告の基礎とするために保管しているという金銭出納簿(甲八号証)によれば、昭和六二年分の人件費として五二四万一六〇〇円が記載され、その計算方法として一七四万七二〇〇円に三を乗じるなど、従業員数が三名であり、一人当たりの給与が年額一七四万七二〇〇円として計算されたかのような原告の主張とは矛盾した記載がある。他方、原告の従業員数が二名であったか三名であったかについては曖昧であり、従業員の一名の住民税の申告における収入金額が、右金銭出納簿の一名分の年額である一七四万七二〇〇円となっていることからすると、原告が真実雇用していた従業員数は二名であり、これらの者に対し、給与年額一七四万七二〇〇円に二を乗じた三四九万四四〇〇円しか支払っていないにもかかわらず、当初申告において、一名分の架空人件費を計上していた可能性も考えられるのであり、原告の一般経費を実額で把握することは困難である。

第三争点に対する判断

一 争点1(推計の合理性)について

1 被告は、原告の営む業種をパチンコ業とした上、被告が把握した原告の売上原価(パチンコ業に係る景品の仕入金額)を基礎として、右金額を比準同業者の平均売上原価率で除して総収入金額を算出し、右総収入金額に比準同業者の平均特前所得率を乗じて原告の特前所得金額を算出している。

2 そこで、以下、右の推計方法の合理性について検討する。

(一) <証拠略>によれば、以下の事実が認められる。

被告は、本訴において、比準同業者として、原告の納税地を管轄する江戸川税務署及び隣接等税務署(以下、まとめて「本件各税務署」という。)管内において、原告と同種のパチンコ業を営む個人事業者及び法人事業者のうち、本件係争年分の各年分ごとに、本件抽出基準をすべて満たす比準同業者を抽出することとし、右抽出は、本件各税務署に対し、本件抽出基準を満たす対象者すべてにつき課税事績報告書の作成及び報告を求める通達を発し、本件各税務署から報告書の提出がされるという方法で行われた。なお、右通達においては、法人事業者の所得を個人所得に換算するため、法人の損益となるが、個人の収入金額又は必要経費とならないものを除外する等の報告書の作成要領が詳細に記載されている。そして、右通達に対する本件各税務署の報告書により、別表五から七までのとおりの本件比準同業者(昭和六二年分については四件、昭和六三年分については七件、平成元年分については八件)が抽出された。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 以上によれば、本件抽出基準は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の点において、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものといえる。また、被告は、本件抽出基準に該当する者のすべてを抽出したものであって、その抽出過程に特に被告の恣意等が介在する余地も認められない。さらに、本件比準同業者は、いずれも帳簿等の書類の裏付けを有する青色申告者であって、経営状態が異常であると認められる者や更正等に対して不服申立て等をしている者が除外されていることに照らすと、その総収入金額及び必要経費の算出根拠となる資料の正確性も担保されているということができる。そして、抽出された本件比準同業者の数は、いずれも同業者の個別性を平均化するに足りるものであるということができ、本件比準同業者の売上原価率及び特前所得率をみても、売上原価の多寡により、著しい偏差があるとも認められない。

したがって、被告の推計方法には合理性があるというべきである。

(三) これに対し、原告は、小規模零細個人事業者と大規模法人事業者とでは、経営効率等が異なるところ、被告の推計方法は、法人事業者をも対象者に含めている点で不合理である旨主張する。

しかしながら、原告の主張するような経営効率等の差異は、規模の大小によって左右されることは格別、法人か個人かによって当然に左右されるものとも考えられず、法人であることにより当然に大規模な事業体であるといえないことは明らかである(ちなみに、原告本人尋問の結果によれば、原告自身の事業も、平成三年に法人化しているところである。)。そして、本件抽出基準の中には、事業の規模の近似性を確保するための売上原価についてのいわゆる倍半基準が含まれているところ、売上原価の多寡は、パチンコ業においても、その事業規模を一定程度反映しているものといい得るから、法人、個人を問わず、その事業規模は、原告の事業規模と近似する一定の範囲内に規定されているものと考えられる。したがって、法人事業者が当然大規模な事業体であるとの前提で、これを含めることの不当性をいうにすぎない原告の主張は採用できない。

なお、法人の所得と個人の所得とでは、その算出方法が異なる部分があるが、本件比準同業者を抽出するに当たっては、法人について、個人所得への換算がなされていることは前記認定のとおりである。

(四) また、原告は、原告の店舗が駅等から離れた住宅街の中にある小規模で内外装の更新等もされていないものであるにもかかわらず、被告の推計方法は、こうした原告の顕著な特殊事情を一切しんしゃくしていない点で合理性を欠く旨主張する。しかしながら、推計による課税は、納税者の所得金額が直接資料によって把握することができない場合に、やむを得ず間接資料によって推計した金額をもって真実の所得金額に近似するものとして認定し、課税するものであるところ、原告と比準同業者の類似性を過度に要求することは、推計の方法による課税自体を不可能にすることになりかねない。そうすると、所得税法が推計による課税を認めている以上、業種及び業態、事業所の近接性、事業規模等の基本的な要因において比準同業者の抽出が合理的であれば、比準同業者間に通常存在する程度の個別的な営業諸条件の差異は、その平均値を算出する過程で捨象されるものというべきであるから、原告において、右平均値に吸収され得ないような特殊事情の存在を立証しない限り、右の差異自体をもって、推計の合理性を否定することはできないというべきである。

原告は、原告店舗が極めて小規模な店舗であり、従業員数も極めて少ない旨主張するが、前示のとおり、売上原価の多寡は、パチンコ業においても、その事業規模を一定程度反映しているものといい得るし、パチンコ業の業態からすれば、従業員数の多寡は、その事業規模を示す一つの指標となることは格別、それ自体が直接売上の多寡に結び付くともいえないものというべきところ、原告の店舗の従業員数がその事業規模に照らして著しく少なく、それが売上に著しい影響を及ぼす程度のものと認めるに足りる証拠はないから、この点をもって、直ちに、被告の推計方法を不合理ならしめる程度に顕著な特殊事業があるということはできない。また、原告は、原告の店舗の立地条件が著しく悪く、集客力が劣り、売上もじり貧である旨主張するが、パチンコ店の立地条件による集客の程度は、その売上原価の多寡に一定程度反映されるものと考えられるところ、本件比準同業者には原告の売上原価を下回る同業者も相当程度含まれており(昭和六二年分は、四件中三件、昭和六三年分は、七件中二件、平成元年分は、八件中三件)、また、本件係争年分に関しては、原告の売上原価自体は上昇傾向にあることからすれば、原告の店舗の立地条件等が、本件比準同業者に比して著しく劣り、推計を不合理ならしめる程度に顕著な特殊事情があると認めるに足りないものといわざるを得ない。もっとも、パチンコ業においては、集客のための営業努力として、いわゆる出玉率を高め、これにより売上原価率が上昇するということも考えられないではないが、原告の店舗における出玉率が本件比準同業者に比して著しく高く、これが、推計を不合理ならしめる程度に顕著であることを具体的に認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ない。

したがって、原告の主張する営業諸条件の差異は、推計を不合理ならしめる程度に顕著なものということはできず、比準同業者間に通常存在する程度のものといわざるを得ないから、比準同業者の平均値を算出する過程で捨象されるものというべきであり、原告の主張は採用できない。

(五) 以上によれば、原告の主張はいずれも理由がなく、被告の推計方法は合理性を有するというべきである。

3 そして、被告の主張する推計方法によれば、次の金額が算出される。

(一) 推計の基礎となる原告の本件係争年分の売上原価の金額

(1) 本件係争年分の仕入金額についての当事者双方の主張額は、別表四及び別表八ないし一〇のとおりであって、当期のパチンコ業に係る景品等の原告主張に係る値引前の仕入金額自体は当事者間に争いがなく(なお、原告は、昭和六三年分の右仕入金額を一億四九二一万〇〇一四円と主張しており、被告主張の一億四九二〇万一〇一四円より多い金額を主張しているが、その根拠は全く明らかではなく、単なる誤記とも考えられるが、いずれにしても、少なくとも、被告主張の仕入金額があることについては、当事者間に争いがないことになる。)、期首期末の商品棚卸高の点、飲料類の仕入高及び値引額の点及びパチンコ業に係る景品等の仕入金額における値引額の点につき争いがある。そこで、以下、右当事者間に争いのある部分について検討する。

(2) 期首期末商品棚卸高の点について

原告は、年末年始における商品の実地棚卸はしていないが、年を越して繰り越した商品の在庫は別にしておき、これが零になる時点を把握して期首期末の商品棚卸高を算出した旨主張する。

しかしながら、<証拠略>によれば、原告が現に行っている棚卸の方法についての記載部分及び供述部分は、曖昧かつ変遷しており、<証拠略>における記載部分をみても、結局、繰越商品のうち、煙草及び一般景品については棚卸を行っていないことになり、また、換金用の商品については、在庫を峻別している旨の記載はあるが、実地の棚卸もしているというのであり、実地棚卸をして在庫数を把握しながら、何故、これを峻別しているのかは明らかではないから、右記載部分は必ずしも信用できないものといわざるを得ない。

したがって、いずれにしても、原告主張の期首期末の商品棚卸高を基に、推計の基礎となる売上原価の額を計算することはできないものというべきである。

(3) 飲料類の仕入金額等について

原告は、当事者間に争いのない仕入金額以外にも、飲料類の仕入金額がある旨主張する。しかしながら、仮に、原告主張のような飲料類の仕入金額が認められ、その点につき、被告主張の仕入金額に捕捉漏れがあるとしても、右仕入れに係る飲料類を仕入金額を下回って販売しているような場合は格別、そうでない以上は、推計の基礎としての仕入金額に被告の捕捉漏れがあるときには、これに基づいて算出される収入金額、さらには所得金額もこれに応じて減少することになり、いわゆる控え目な推計となるのであるから、原告の実額主張としては格別、推計の基礎となる仕入金額等については、少なくとも被告の主張する仕入金額等が認められるか否かを問題とすれば足りるものというべきである。

(4) 景品等の仕入値引額について

原告は、被告が売上原価として把握した仕入金額自体は、原告の掛仕入金額として争わないが、原告が現に仕入先に支払った金額は、右掛仕入金額より少ない金額であり、被告の主張する仕入金額から右差額を控除した金額が売上原価となる旨主張する。確かに、<証拠略>によれば、昭和六二年分の佐藤長八商事株式会社からの菓子食品等の景品の仕入金額のうち、一月分、四月分、五月分、七月分及び一〇月分の仕入金額については、原告の支払に対して発行されたものと考えられる領収書において、その一〇円未満の端数が切り捨てられた金額が記載されていることが認められ、<証拠略>によれば、昭和六二年分の山形屋興業株式会社からの仕入金額については、小切手により支払がなされていると考えられるところ、そのうちの一部については、領収書に記載された金額から一〇〇円未満の端数を切り捨てた金額が、原告の当座預金から支払われていることがうかがわれる(なお、原告は、昭和六二年一〇月二〇日付けの領収書につき、四二〇円の値引きがある旨主張するようであるが、この点は証拠上必ずしも明らかではない。)。しかしながら、<証拠略>の仕入先の納品明細証明書及びお買上実績表証明書に照らしても、仕入先が右端数分を最終的に値引きとして処理したか否か、端数分につき清算が行われたか否かは必ずしも明らかではなく、右事実をもって、直ちに右端数分に係る値引きがあったことを推認することはできないものといわざるを得ない。また、昭和六三年分及び平成元年分の値引きについては、これを認めるに足りる証拠はない。

なお、仮に、原告主張に係る値引額(ただし、飲料の仕入金額に係る部分を除く。)が認められるとしても、そのこと自体が被告の推計を不合理とするものでないことは、後記のとおりである。

(二) 本件係争年分の総所得金額

本件抽出基準及び本件比準同業者の平均売上原価率及び平均特前所得率を用いた推計方法が合理的であること、推計の基礎となる原告の売上原価の金額が被告主張のとおりとなることは、前記のとおりであり、これによれば、本件係争年分の原告の総所得金額は、被告主張のとおりとなり、いずれも、本件各更正に係る総所得金額を超えることとなる。

なお、仮に、原告主張に係る値引額(ただし、被告の計算において、そもそも売上原価に含まれていない飲料の仕入金額に係る部分を除く。また、昭和六三年分については、原告は被告主張額より多い値引前の仕入金額を主張しており、これに基づけば、原告主張の値引額を差し引いても、その仕入金額は、被告主張額より多いことになるが、被告主張額から更に原告主張の値引きがあったものとして計算する。さらに、平成元年分については、原告は値引きとは別に仕入金額の訂正として一万五四四九円を加えるべきことを主張するかのようであり、これを考慮すれば、その仕入金額は被告主張額より多いことになるが、なお、被告主張額から更に原告主張の値引きがあったものとして計算する。)が認められるとすると、推計の基礎となる原告の売上原価の金額は、昭和六二年分は八九一六万三九八二円、昭和六三年分は一億四九一九万八九一〇円、平成元年分は一億六二七八万一四一五円となるところ、本件比準同業者の売上原価は、いずれも、右金額の倍半基準の範囲内にあること、被告主張額と右金額の差異は極めてわずかであること等に照らせば、本件比準同業者の平均売上原価率及び平均特前所得率を用いることには、なお合理性があるというべきである。そして、右金額を基に、本件比準同業者の平均売上原価率を用いて、原告の本件係争年分の総収入金額を算出すると、昭和六二年分は一億二四二八万七六八〇円、昭和六三年分は二億一五九万二九〇六円、平成元年分は二億一六四六万四六四七円となり、これを基に、本件比準同業者の平均特前所得率を用いて、原告の本件係争年分の特前所得金額を算出すると、昭和六二年分は一三三七万三三五四円、昭和六三年分は一九一九万一六四四円、平成元年分は二〇二一万七七九八円となり、いずれにしても本件各更正に係る総所得金額を超えることになる。

二 争点2(原告の本件係争年分の実額による総所得金額)について

1 被告の主張する推計課税に対して、原告は、本件係争年分の総収入金額及び必要経費の実額は、前記第二、三2(一)のとおりである旨主張する。

そこで、検討するに、被告の推計方法は、被告が把握した原告の売上原価を基礎として、同業者比率により売上金額及び特前所得金額を推計するものであるところ、このような推計課税に対して、原告が実額による課税をすべき旨を主張する場合には、原告は、その収入金額と必要経費の実額及び収入金額と必要経費との対応関係について立証する必要があることはいうまでもない。そして、この場合、収入金額についていえば、原告は、その主張する収入金額が原告の当該係争年分のすべての取引から生じたすべての収入(以下「総収入」という。)であることを主張、立証する必要があるというべきである。

(一) 原告は、その主張する収入金額が、原告の総収入である旨主張し、その証拠として、売上レシート(<証拠略>)、月別集計表(<証拠略>)、金銭出納簿(<証拠略>)及び元帳(<証拠略>)等を提出している。

そこで、まず、これらの証拠により、原告の主張する収入金額が、原告の総収入であると認められるか否かについて検討する。

<証拠略>によれば、右元帳は、事業の必要性などから日々あるいは各年度末等に原告自身が作成したものではなく、本件各更正が問題となってから、原告が知人に依頼して作成してもらったものであることが認められるから、このような資料をもって原告の主張する収入金額が総収入であることを認めるべき証拠に供することはできないというべきである。

また、<証拠略>によれば、右金銭出納簿は、通常の金銭出納帳のように日々の現金の入金、出金を管理するために記載されたものではなく、申告のために年間の収入及び必要経費を集計したものを原告の控えとするために大学ノートに書き留めたものにすぎない上、収入金額に関していえば、その内訳等は必ずしも明確ではなく、パチンコの貸玉等に係る売上については、右月別集計表記載の数字を合算したものであること、また、右月別集計表は、売上レシートの記載を月別に集計したものであることが認められるから、右金銭出納簿及び月別集計表自体をもって、原告の総収入を認定するための有効な資料ということはできないものといわざるを得ない。

そうすると、原告の総収入を把握できるか否かは、結局、売上レシートにより、これを認定し得るか否かに帰することになるのであるから、この点について検討する。

原告の営むパチンコ業は、その収入の大部分を占めるパチンコの貸玉及びスロットマシンの貸コインに係る売上を現金で回収する業種であり、そのような業種においては、売上の痕跡が残りにくく、いったん売上が除外されるとそのまま不明となってしまうことは否めないところであるから、その売上金額の立証においては、現金の管理が適正に行われているか否かが重要な要素となるというべきである。そして、一般に、パチンコ業においては、貸玉等に係る現金の売上高は玉貸機のカウンター等に表示される貸玉等の数量によって定まることからすれば、貸玉等の数量を記録したレシート等が重要な資料となるものというべきところ、原告は、本訴において提出した売上レシートには、貸玉等に係る売上が正確に記載されている旨主張する。しかしながら、<証拠略>によれば、右売上レシートは、玉貸機等がコンピュータに接続されて自動的にプリントアウトされるようなものではなく、毎日の営業終了後、パチンコ玉の自動及び手動の玉貸機並びにスロットマシン用のコインの自動コイン貸機のメーターを、それぞれ原告が読み取って電卓に入力し、全体の合計あるいは自動玉貸機と手動玉貸機の合計を出し、さらに、これをプリンター付の別の電卓に入力するという方法により作成したものであるというのであるから、売上レシートの作成に際しては、メーターの読み誤り、電卓への入力誤り等があり得るところであり、これが正確であるといい得るためには、現金出納帳等の会計帳簿による日々の現金管理、とりわけ、売上レシートに記載された売上金額と日々と現金在高との照合等が十分なされている必要があるというべきである。ところで、原告が、日常、現金出納帳等の会計帳簿を作成していないことは、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に照らして明らかであり、また、原告本人尋問の結果によれば、原告が、売上レシートに記載された売上金額と現金在高との照合を行っているか否かについては、極めて曖昧かつ不自然な供述に終始しており、その供述によれば、自動玉貸機内の硬貨については、日々これを数えるようなことはしないというのであるから、いずれにしても、右のような現金との照合が行われていないことは明らかである。なお、<証拠略>には、原告が換金商品を現金と交換する換金所に換金のための原資を持ち込んでいることを前提として、現金との照合を行っている旨の記載部分があるが、仮に、原告が換金のための原資を持ち込んでいるというのであれば、原告が換金所の経営を自ら行っていたとも考えられ後記のとおりの問題があるし、この点はさておいても、いずれにしても自動玉貸機内の硬貨を計算することなく、日々の現金在高を把握することができるとは考えられないというべきである。そうすると、原告の売上及び現金の管理は極めて不十分なものといわざるを得ず、売上レシートは、その記載に当たり、現金との照合等の検証が全く行われていないため、売上レシートへの入力誤りや入力漏れ等があるか否かについても検証を経ていないことになるから、その正確性の裏付けを欠く信ぴょう性の低い資料であるというほかはないのであって、これをもって、原告の本件係争年分の総収入を認めるに足りないというべきである。

したがって、本訴で提出された証拠をもってしても、未だ、原告が、本訴で主張する総収入金額が原告の総収入であると認めるに足りないものといわざるを得ない。

また、原告が本訴においてその総収入金額として主張する金額は、売上レシートに記載された売上金額の合計に飲料類の自動販売機による売上を概算で月八万円としてこれを加えた金額であるところ、<証拠略>によれば、原告には、少なくとも武州企業株式会社へのパチンコ機械の売却による収入があると認められるところ、原告の主張する総収入金額には、右パチンコ機械売却に係る収入が含まれていないことは明らかである。また、<証拠略>によれば、平成五年四月二六日に東京国税局の職員が原告の店舗に臨場した際、原告は、換金商品と現金との交換を行う換金所の経営を自らが行っている旨を自認していたことが認められ、<証拠略>の記載によっても、原告が自ら換金所の経営を行っていたことがうかがわれるところであるが、通常、換金所の経営を行う場合、換金所の経営に係る利益が生ずる可能性があると考えられるにもかかわらず、原告は、換金所の経営に係る利益が生じていないことについての合理的な説明をしない。さらに、<証拠略>によれば、原告本人の認識によれば、本件係争年分当時の所得は月々二〇万円ないし三〇万円程度であったというのであるが、右認識が必ずしも正確なものでないとしても、少なくとも平成元年分の原告の主張する総所得金額は、その認識を著しく下回っており、その開差は、認識の不正確性や誤差といったもので、合理的に説明できない程度のものといわざるを得ない。

そうすると、これらの点からみても、原告が、本訴で主張する総収入金額が原告の総収入であるとはいえないというべきである。

(二) 以上によれば、原告提出に係る前掲各証拠をもっては、原告主張の総収入金額が原告の総収入であると認めるに足りないというべきであり、そのほか、原告主張の総収入金額を総収入と認めるに足りる証拠はない。

2 したがって、原告の総収入金額及び必要経費についての実額の主張は、その余の点について判断するまでもなく、これを採用することはできないというべきである。

三 結論

以上のとおり、本件推計課税においては、推計の必要性及び合理性が認められ、本件各更正の総所得金額は、右推計により算出した本件係争年分の総所得金額の範囲内である。したがって、本件各更正には何ら違法な点はなく、また、これに基づく本件各賦課決定にも何ら違法な点はないから、原告の請求はいずれも棄却すべきこととなる。

(裁判官 秋山壽延 竹田光広 森田浩美)

別表一 課税の経緯(昭和六二年分) (単位・円)

区分

年月日

総所得金額

所得控除の額

申告納税額

過少申告加算税額

確定申告

六三・三・一一

二、〇五二、三〇八

五六五、〇一二

一五五、四〇〇

更正賦課決定

二・一二・二五

七、〇一九、三六三

五六五、〇一二

一、一六三、七〇〇

一二五、〇〇〇

異議申立

三・二・一九

二、〇五二、三〇八

五六五、〇一二

一五五、四〇〇

異議決定

三・五・一六

棄却

審査請求

三・六・一三

二、四〇二、四八六

五六五、〇一二

一九七、一〇〇

裁決

四・九・一七

六、四八五、七七六

五六五、〇一二

一、〇〇七、五〇〇

一〇二、五〇〇

別表二 課税の経緯(昭和六三年分) (単位・円)

区分

年月日

総所得金額

所得控除の額

申告納税額

過少申告加算税額

確定申告

元・三・一三

二、四〇〇、〇〇〇

七四〇、九七七

一六五、九〇〇

更正賦課決定

二・一二・二五

一六、七一〇、九六四

七四〇、九七七

四、四八七、六〇〇

六二三、〇〇〇

異議申立

三・二・一九

二、四〇〇、〇〇〇

七四〇、九七七

一六五、九〇〇

異議決定

三・五・一六

一六、六四四、五七五

七四〇、九七七

四、四六一、二〇〇

六一八、五〇〇

審査請求

三・六・一三

二、六六九、八八〇

七四〇、九七七

一九二、八〇〇

裁決

四・九・一七

一三、七八五、七二七

七四〇、九七七

三、三一七、六〇〇

四四七、五〇〇

別表三 課税の経緯(平成元年分) (単位・円)

区分

年月日

総所得金額

所得控除の額

申告納税額

過少申告加算税額

確定申告

二・三・一三

二、八〇三、四〇〇

一、六二七、一〇〇

一一七、六〇〇

更正賦課決定

二・一二・二五

一六、一四六、六六一

一、二七七、一〇〇

四、〇四七、六〇〇

五六四、五〇〇

異議申立

三・二・一九

二、八〇三、四〇〇

一、六二七、一〇〇

一一七、六〇〇

異議決定

三・五・一六

一六、一四〇、二七一

一、二七七、一〇〇

四、〇四五、二〇〇

五六三、〇〇〇

審査請求

三・六・一三

二、八〇三、四〇〇

一、六二七、一〇〇

一一七、六〇〇

裁決

四・九・一七

九、五二四、三〇二

一、六二七、一〇〇

一、四六九、一〇〇

一七七、五〇〇

別表四

仕入金額の明細

単位:円

仕入先

昭和62年分

昭和63年分

平成元年分

佐藤長八商事(株)

85,589,080

146,410,744

158,476,444

山形屋興業(株)

3,575,450

2,790,270

4,309,104

合計

89,164,530

149,201,014

162,785,548

別表五

パチンコ業に係る比準同業者

昭和62年分

対象者の記号

<1>

売上金額

(円)

<2>

売上原価

(円)

<3>

売上原価率

<2>/<1>

(%)

<4>

所得金額

(円)

<5>

特前所得率

<4>/<1>

(%)

A

109,866,200

67,644,550

61.57

13,825,250

12.58

B

122,447,650

94,340,994

77.05

14,634,841

11.95

C

58,874,900

45,937,577

78.03

5,021,431

8.53

D

76,873,200

54,053,700

70.32

7,661,359

9.97

合計(4件)

286.97

43.03

平均

71.74

10.76

別表六

パチンコ業に係る比準同業者

昭和63年分

対象者の記号

<1>

売上金額

(円)

<2>

売上原価

(円)

<3>

売上原価率

<2>/<1>

(%)

<4>

所得金額

(円)

<5>

特前所得率

<4>/<1>

(%)

A

119,107,500

83,745,930

70.31

7,927,392

6.66

B

117,704,600

89,643,082

76.16

14,142,926

12.02

C

230,131,094

194,786,701

84.64

17,376,436

7.55

D

281,407,790

216,171,666

76.82

15,091,773

5.36

E

288,295,000

192,042,199

66.61

14,766,237

5.12

F

319,580,100

241,492,808

75.57

57,551,453

18.01

G

384,958,975

261,603,895

67.96

45,915,238

11.93

合計(7件)

518.07

66.65

平均

74.01

9.52

別表七

パチンコ業に係る比準同業者

平成元年分

対象者の記号

<1>

売上金額

(円)

<2>

売上原価

(円)

<3>

売上原価率

<2>/<1>

(%)

<4>

所得金額

(円)

<5>

特前所得率

<4>/<1>

(%)

A

125,066,800

92,990,106

74.35

10,224,359

8.18

B

121,883,715

88,554,248

72.65

17,411,399

14.29

C

233,817,689

198,168,881

84.75

16,011,911

6.85

D

266,515,747

198,581,414

74.51

23,558,099

8.84

E

289,295,312

202,009,422

69.83

11,180,921

3.86

F

364,604,100

288,950,267

79.25

52,839,553

14.49

G

401,647,200

262,652,115

65.39

52,963,802

13.19

H

140,887,385

113,963,608

80.89

7,046,626

5.00

合計(8件)

601.62

74.70

平均

75.20

9.34

別表八

昭和62年度 売上原価の算定資料

〔原告の計算〕

期首商品棚卸高  2,628,090

当期景品仕入高  89,164,530

同上値引       -548

飲み物類仕入高   797,374

同上値引      -1,400

期末商品棚卸高  1,924,300

売上原価     90,663,746

〔被告の計算〕

当期景品仕入高  89,164,530

別表九

昭和63年度 売上原価の算定資料

〔原告の計算〕

期首商品棚卸高  1,924,300

当期景品仕入高 149,210,014

同上値引      -2,104

飲み物類仕入高   542,140

同上値引      -1,520

期末商品棚卸高  4,943,900

売上原価    146,728,930

〔被告の計算〕

当期景品仕入高 149,201,014

別表一〇

平成元年度 売上原価の算定資料

〔原告の計算〕

期首商品棚卸高  4,943,900

当期景品仕入高 162,785,548

同上値引      -4,133

同上訂正       15,449

飲み物類仕入高   448,485

期末商品棚卸高  3,145,165

売上原価    165,044,084

〔被告の計算〕

当期景品仕入高 162,785,548

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